
(株)コーシングラフィックシステムズ 1990年
今ではパソコンでビデオから取り込んだいわゆるデジタル映像が扱えることに誰も不思議と思わないかも知れない。しかし1990年にvideo MagicianIIが登場したときはまだAppleのQuickTimeはその存在すら知られていなかった。
1989年にスワイヤトランステック社のH氏から持ち込まれたOrangeMicro社のNuBusビデオボード(Personal Vision)が私たちの興味をひいた。なぜなら当時はまだ256色カラーの時代だったためスキャナであろうがビデオから取り込む一枚のフレームであろうが「どのような256色でその一枚の画像を作るか」というカラーパレットの調整に神経を使う必要があった。幸いなことにそのボードはカラーパレットの調整も可能な優秀な製品であった。
そうしたハードウェアに魅力を感じてビデオカメラから映像を一定間隔で取り込むテストを続けていたところ小さなフレームサイズなら秒間で10フレーム程度の映像をハードディスクに書き込むことが出来、それを再生することでいわゆるデジタルビデオが実現することに気がついたのである。Macintoshで初めてのデジタルビデオが完成した瞬間であった。

Video MagicianIIは現在のQuickTimeが無かった時代にいち早くビデオカメラからの映像を見たままにデジタル化できる唯一のソフトウェアでありシステムだった。そして例えばサンプリングしたサウンドと共に動画を再生でき、一コマづつの巻き戻しや早送りも可能となっていた。
またVideo MagicianIIは動画データを作るだけでなく文字の合成や画像合成など強力な編集機能を持っていたことも特筆すべき点だろう。
ひとことでこのVideo MagicianIIを説明するならQuickTime PlayerとiMovieのような映像取り込みと編集機能を有していたマルチメディア・ツールであったのだ。
事実Version1.2からはソニーのVISCAプロトコルをサポートしVideo MagicianIIから8mmビデオデッキの操作をコントロールすることもできた。さらにVideo MagicianIIにはハイパーカードで動画データを扱うことを可能とするXCMD(外部コマンド)を標準装備していたこともその利用価値を大いに高めたものだ。
このVideo MagicianIIは1990年のビジネスショーにおいてアップルコンピュータ社のブースでデビューを飾り大きな反響をいただいたが、ここでは同じく1990年に幕張メッセで開催された「第2回マルチメディア国際会議」における特別面白いエピソードをひとつご紹介したい。
我々もアップルの依頼で展示スペースにブースを持ちVideo MagicianIIのデモンストレーションをすることとなったが、プレゼンテーション用として私が制作したサンプルは二つあった。
ひとつは画面上に表示するサンフランシスコ市内の地図にあるいくつかのポイントをクリックするとそれぞれの場所のカラー動画がポップアップし、その様子をサウンドと共に表示するという観光案内を意図したもの。そして二つ目は鳥類図鑑と名付けたもので画面にある十数個の鳥の名前のボタンをクリックするとそれぞれの鳥のカラー映像が表示し羽ばたいたりしながら鳴くというものだった。
実はその「第一回マルチメディア国際会議」にはあのビル・アトキンソン氏など多くのVIPが来場していたがマイクロソフト社のビル・ゲイツ氏もマルチメディアの未来を紹介するという基調演説を行うために来日していた。
我々にとって愉快だったのはビル・ゲイツ氏のプレゼンテーションもたまたま鳥類図鑑的なものだったにも関わらず音声は出るもののそれらの鳥は静止画であり動かなかったのである。
後でスタッフらに聞いたところによればビル・ゲイツ氏は講演の前にたまたま我々のブースにも立ち寄りVideo MagicianIIによる鳥類図鑑のデモを見ていたという。パソコンの歴史にとっては些細なことだろうが日本で生まれたばかりの超マイクロ企業が世界のマイクロソフトに一矢報いることができた楽しいひとときであった。