
moshiがオーディオ製品への進出の第一弾として選んだのは「vortex」インナーイヤーヘッドフォンだった。そして前回その製品を手にした第一印象をお届けしたが今回はヘッドフォンの評価の本質にもなる肝心の音に関してレポートしてみる。
最初から泣きを入れるわけではないが、音の評価は大変難しい。それも計測器などによる結果でなく自身の耳による評価となればそれが最大公約数の結果として受け入れられるものなのか…実に心許ない。
無論それは私が音の専門家ではないからでもあるが、そもそも音の善し悪しは聞き手の経験と好みに大きく左右される。
オーディオ機器、それもスピーカーとかヘッドフォンといった再生機器には例えば10Hz~20000Hzといった可聴域がスペックとして明記されるがこの範囲が通常ヒトの認識できる周波数域だからである。しかしこの可聴域は個人差も大きいと共に加齢により高音域が聞こえなくなることが知られている。事実私も計測サイトなどで実際に確認してみるまでもなく15000Hzあたりから上は聞こえない…。
しかし音楽となれば話しは別だ。それはヘルツ云々だけでは計りきれないものでもある。そして私は凝ったオーディオマニアではなかったから大層な設備でレコードやCDを聞いたことはないが自身で楽器 (ギターやピアノ)を演奏してきたことでもあり若い頃には様々なコンサートも体験してきた。
反論を承知で言ってしまえば本来オーディオを通して聞く音楽はいわばまがい物である…。音楽とは一部の特殊な例を除けばミュージシャン…すなわち生身のプレイヤーたちが感性を持ち合い、声を出しあるいは楽器を演奏することだ。
本来なら我々もその場で、生で聞くべきであり、それが演奏の善し悪しの基準となるはずだ。
とはいえ現実には生演奏の機会を得ることは難しいし、現代ではスタジオなどによる録音がCDとなるものがほとんどだから生演奏が “本物” といったところで時代錯誤としか思われないだろう(笑)。そもそもコンサート自体も電子楽器の台頭は勿論、マイクやらスピーカーなどがずらりとならび、そこから発した音を我々は聞いているわけで、生演奏の音にこだわるのは無理な時代になっている。
とはいえどんなに録音技術が高度になろうと、再生装置側が進化しても言葉の綾ではなくそれはあくまで生演奏の複製記録でしかない。
よく「○○社のスピーカーは作られた音だ」などという評価がまことしやかに言われるがすべてのオーディオ装置ならびにそこから発せられる音はプロフェッショナルたちによって作られた音であり、生の音であるはずがないことを忘れてはならない。
したがって個人的にはオーディオ機器、特に再生機器一番の使命はいかに生演奏のリアルさを再現できるかにあると思っている。無論音楽と言っても多種多様なものがあるから…例えばシンセサイザーによる音楽のようにイメージとしての生演奏といったもの自体が存在しないというジャンルもあるが少なくとも楽器を人が奏したものならその場で聞いた音をリアルに再現したいというのが一般的な要求ではないだろうか。
少人数のジャズ演奏、小ホールでの弦楽四重奏、教会のパイプオルガン、コンサートホールのフルオーケストラなどなど、その場にいるような臨場感溢れるオーディオ再生ができたらそれは成功であろう。
さて私自身はクラシック、ジャズといったジャンルの音楽を好むこともあり「vortex」の音がどのようなものであるかに興味を持ちエージングしながらロック、ジャズ、クラシックは勿論演歌まで聞き込んでみたが「vortex」は音のまとまりがよくパンチがありどんなジャンルの音楽でも豊かな音で楽しめるという感想を得た。
※低反発イヤーチップを装着した「vortex」
メーカーのmoshiは「vortex」をRock, Pop, Hip Hop, R&BそしてElectronicといった音楽に最適化した製品と称しているが私の耳には全方位向けの製品としてアピールしても良いのではないかと感じた。
クラシックギターやグランドピアノそして管楽器や弦楽器の音にも違和感はなく総じて優等生のイヤフォンである。あえて気になった点は高音が多少ツンツンするケースがあること、そして中音域の主張が不足と思える部分があったぐらいだ。
なおテストは低反発イヤーチップを使って行ったが、その装着感は最良のものだ。さらに音漏れもほとんどなく長時間の使用にも耳が痛くなったりせず疲れないのが嬉しい。
ところで音の評価は比較することでよりその特性が際立ってくるものだ。ということで次にiPhoneに付属しているApple純正のイヤフォンならびに個人的に最高のインナーイヤーヘッドホンのひとつとして評価している「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」を比較対象にした「vortex」の音への印象を記してみたい。
比較のやり方だが、音の細部までに気を配り、それを記憶し例えば次に聴く音との違いを明確にするのは意外と難しい。したがってここではGRIFFIN社「SmartShare」をiPhoneやMacのイヤフォンジャックに接続し、比較対象のイヤフォンを「SmartShare」のそれぞれに接続して一緒に再生しつつ、適宜耳への装着を換えながら…違いを認識しようと試みた。
※本来はペアで音楽を楽しむことができるGRIFFIN社製「SmartShare」
さて、まずApple純正のイヤフォンは高級品ではないもののiPhoneユーザーの多くが実際に使っているはずの製品だ。事実電車内や路上で行き交う人たちの中には一目でアップルの純正品だと分かるこのイヤフォンを使っている人たちを多く見かける。ただし女性など耳が小さい方には少々装着しにくいようだがサウンドは全体的にバランスがよい。
※「vortex」とアップルの純正イヤフォン
サウンドが中央に適度にまとまり音も全体的に豊かだ。したがってこれだけで聴いていればそんなに文句はないが「vortex」インナーイヤーヘッドフォンに換えるとステレオ感というかサウンドの広がりが増すのが分かる。そして「vortex」はパーカッションなどの高音の切れがよく低音もただ鳴るだけでなく息づきが感じられる。
例えばライブのサウンドを聴いた場合、Apple純正イヤフォンはサウンド自体はよく鳴っているものの全体の音がこぢんまりとまとまった感じでだ。対して「vortex」はホールなどの臨場感が感じられるといったらよいのだろうか…。まあApple純正品はApple Storeで購入する場合に2,800円なのに対して「vortex」は80ドルの価格設定がされているからある意味で良くて当然だが、これまでiPhoneに付属していたイヤフォンで満足できなかったユーザーがステップアップするに「vortex」は最適のイヤフォンのひとつとなるに違いない。
続いて個人的に最も気に入っているイヤフォン「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」と「vortex」の比較もやってみた。
無論「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」は十分なエージング期間を得て愛用している製品だが一方「vortex」は手にしてからまだ10日間程度でありエージングも十分とは言えない。そしてなによりも「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」はいわゆる標準価格が50,000円ほどもする製品だからして比較するのは「vortex」にとって正直酷に違いない…。
※「vortex」と「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」
ともかく実際に比較してみると「vortex」は前記したように音の鳴りは豊かだが些かツンツンした感じも受ける。そしてひとつひとつの楽器の音がしっかりと「見える」臨場感の差と音の広がりはやはり「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」の方が増している。そして単にダイナミックレンジ云々ではないサウンドの艶が「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」は際立っている…。
これまたライブのサウンドをいくつか比較したが「vortex」はステージの前で聴いている…というほどの良いバランスを感じるが「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10vi Pro for iPhone」の方はマイクのセッティング位置までが見え、演奏者たちの周りにいる感覚を覚える。無論それらはソースの善し悪しによっても違ってくるが…。
ともあれmoshiがオーディオ製品分野に進出した最初の製品「vortex」インナーイヤーヘッドフォンは装着感を含めこのクラスの他の製品を凌駕する性能と品質を持っていると思う。
ウェブで調べてみるまでもなく「vortex」と同様な価格体の製品は数多いが、例えばアップル製ということも含め「vortex」の本当の競合製品はApple In-Ear Headphones with Remote and Mic あたりということになるのかも知れない。