ひとつの拘りを持った製品を生み出すには関係する人たちの強い意思が必要だし、作り上げられた製品にはそうした人たちのメッセージが込められていると考えて良いだろう。特にMacintosh 128Kを始めとする一体型モノクロMacintoshにはそれを強く感じる。今回はそうした一体型Macintoshのフロントにあるアップルロゴを再考してみよう。

 

先日数人の方たちと最初期のMacintoshに関するデザインについて雑談をしていたが、あらためて考えてみるとMacintosh Plusのフロントにあるアップルロゴは「なぜあの位置に置かれているのだろうか?」という話が出た。気になったので手元の資料を調べてみたらこれまであまり意識しなかった点に目についた…。どうも私らは些細な部分に目が行きすぎる傾向があるが、性分なので仕方がない(笑)。

そういえば以前にMacintosh 128Kと512Kのリアパネルにあるエンブレムについてご紹介したことがあるが、この両者はフロントから見ただけではその違いはまったく分からない。
事実その名称のとおり、メモリを128KBから4倍の512KBに増やしただけといったアップグレードでありその他の仕様に変更はなかった。そしてこの時期Appleは有償ながらハードウェアのアップグレードを実施していたこともあって筐体は128Kのままだがメモリは512KBに拡張されている…といった製品が存在することになる。

今般あらためて興味を持ったのはフロントケースにあるアップルロゴだ。それも特にMacintosh Plusのが気になりだしたのである…。
Macintosh 128Kや512Kのアップルロゴはケースの左および下の面取り位置からほぼ均等なポジションに置かれている。それはケースに角の丸い正方形をくり抜き、エンボス加工したアルミに6色アップルを印刷し周囲にダイヤカットを施すことで立体感を出したものでこの手法はLisaの物を真似たと言われている。

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※Macintosh 128K のアップルロゴは角丸のプレートと共に成型されている


さてMacintosh 128Kを発表した2年後の1986年1月にメモリを1MBにし、SCSIインターフェースを搭載したMacintosh Plusが発表されたが、興味深いのはそのフロントケースのアップルロゴに大幅変更がなされていることだ。

Macintosh Plusのアップルロゴは128Kや512Kとは違い、ロゴの輪郭そのままに作られており角丸のプレートではなくなっている。そのロゴの形状そのままをケースに埋め込んでいる。
どちらがよりスマートかといえば無論後者、すなわちMacintosh Plusのそれの方だろう。

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※Macintosh Plus のアップルロゴの位置は機種名を記したからとはいえ個人的にはあまり収まりの良いポジションではないように思えるのだが…


想像すればスティーブ・ジョブズだってもし最初からこの方法がとれるのが分かったなら角丸のプレート付きロゴより、ロゴの形のままの埋め込みの方を選んだのではあるまいか…。そしてこのロゴの付け方はLisa 2はもとよりその後に続く6色アップルが使われる製品には使われるようになった。それらの中にはMacintosh本体以外にもプリンター、キーボード、QuickTakeデジタルカメラなど周辺機器も同様である。

もうひとつここで考察しておきたいことがあるが、それがフロントケースのアップルロゴの位置である。
Macintosh 128Kは繰り返すが本体の面取りされた位置から左ならびに下からほぼ均等な距離に配されている。だからだろうか…そのポジションに収まったアップルロゴはバランスもよいし収まりがよいように思える。そして512Kも同様なわけだが、興味深いことにMacintosh Plusになるとそのロゴのあり方はともかく位置がかなり違い、上に移動しフロッピーの挿入スロットと平行な位置に変わっている。
無論Macintosh Plusがリリースされた前年にすでにスティーブ・ジョブズはAppleを辞めているから、彼の発案ではないだろう。この時代の指揮をとっていたのはジャン=ルイ・ガッセーだったが、Macintosh Plusにはジョブズが最後まで認めなかったシステムソフトウェアの添付やSCSIポートそして表計算ソフトなどのビジネス向けに配慮しキーボードにテンキーを付けオープンなシステムとなった。

もともとMacintoshの強化バージョンという位置付けで開発が進んだMacintosh Plusはその筐体のデザインも本来は変更するつもりだったらしい。内々にフロッグデザイン社はAppleの意向をくんで数百時間も費やし、スノーホワイトの新しいデザインを完成させていたという。しかしここに至って大きな問題が立ちはだかる…。

それは初代Macintoshが目論見のようには売れなかったことだ。
テリー・A・オーヤマとジェラルド・C・マノックによる筐体の金型はジョブズの拘りもあって100万ドル近くもするという大変高価な代物になった。なにしろ1982年前後は円ドルレートは250円から280円前後を推移していたわけであり、100万ドルを単純に円換算すれば金型代だけで2億5000万円も投資したことになる。

したがってMacintosh Plusの開発が現実となった時点でもその金型代は償却できなかったのである。
このため、ガッセーはあらたに金型を作るのではなくフロッグデザイン社に既存の金型すなわちMacintosh 128Kの金型修正を依頼することになった。
その際にポート部分のデザインはもとよりリアパネルのアップルロゴやエンブレムは省かれ、フロントのアップルロゴは前記したように初めて埋め込み型となった。無論面取りのデザインや換気のためのスロットなど基本デザインはそのまま継承された。

こうしてアップルロゴが埋め込みとなったことと同時にその位置が大きく変わったわけだが、さらに大きな違いはロゴの隣に “Macintosh Plus” というネームがプリントされたことだ。これは初代Macintoshとせめてもの差別化を図りたいとしたガッセーらの意思に違いない。そしてアップルロゴの位置はそのネームとロゴとのバランスからフロッピーディスクスロットと平行な位置に配されたのではないだろうか…。
しかしフロントのアップルロゴはMacintosh Plusの1年後、すなわち1987年に発表されたフロッグデザイン社によるMacintosh SEやSE/30ではほぼMacintosh 128Kの位置に戻っている。
無論それはMacintosh SEの独特なフロントデザインであるスリットのためではあったろうが、皮肉なことである。

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※Macintosh SE のアップルロゴはフロッピードライブ位置の関係上少々下よりだ


さらにモノクロディスプレイ一体型Macintoshは後に1990年のMacintosh Classic、1991年のMacintosh Classic IIまで続くが、アップルロゴはやはりMacintosh 128Kと同様な左下位置である。したがってMacintosh 128K, 512K, Plus, SE, SE/30と続くモノクロディスプレイ一体型マックのフロントアップルロゴは厳密な意味はともかく、Macintosh Plusだけ明らかにその位置が違うのだ。

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※Macintosh Classic II のアップルロゴはほぼMacintosh 128Kの位置に戻っている

 

こうして見ていくとMacintosh Plusは一体型Macintoshのマシンとしては実用度が高いと評価され、長く愛用されたマシンであった。
事実このMacintosh Plusの発表でAppleの売上は急上昇し1987年末には年間売上高はほぼ3年で倍増となり、利益は3倍以上に達した。
確かにMacintosh Plusはジョブズがいなくなり士気も停滞していたAppleを再び高く飛翔させた。しかし金型修正の件を含めてそのフロントデザインのロゴを見ると個人的な感想だが何か急ごしらえの感は免れないような気もするのだが、いかがだろうか…。

【主な参考資料】

・「アップル・コンフィデンシャル 2.5J」アスペクト刊
・「レボリューション・イン・ザ・バレー」オライリー・ジャパン刊
・「アップルデザイン」アクシスパブリッシング刊
・「アップル〜世界を変えた天才たちの20年」早川書房刊