先日久しぶりに旧知のソフトウェアベンダーの方と昔話となった。話題は今思えばバブリーな景気の良い時代のあれこれだったが、アップルの失敗のひとつとされるPerforma時代のソフトウェアバンドルについての話になった…。 

Performaの全盛時代、国産のパソコンに負けてはならないとホームユースのMacintoshにも多くのバンドルソフトウェアが同梱された。クラリスワークスやKidPixなどはその代表例といってよいだろう。 
当時、私の会社ではエンターテイメント系のアプリケーション開発に力を入れており、電子アルバムの「キューティ・アルバム」、デスクトップアニメーションの「キューティ・マスコット」そして本格的なアニメーションツールの「ムービーペイント」などを主力製品として販売していた。 

ある年のある月…としておこうか…。アップルから相談があるので来社して欲しいという電話が入った。その頃は様々な用事で頻繁に千駄ヶ谷のアップルコンピュータ社へ出向いていたが、今回は新しい話だということなのでビジネスチャンスの期待を胸にアップルのエントランスをくぐった。 
アップルからの話は明確であり、私にとっても大変魅力のある話だった。それは国内における新たなPerforma戦略の説明と共に当社のアプリケーションをバンドルしたいという話だった。 

問題はその条件だった。詳しい話は秘密保持契約にもかかわってくるので明言できないが、1本当たりの価格は想像していた以上に安価な要求だった。ただしこちらの作業としては、バンドル用パッケージを作成するためのマスターディスクと簡易マニュアル作成用のデジタルデータをアップルに渡せば、基本的に手を煩わさせることはなかった。 
数回の価格交渉の末にアニメーションソフトである「ムービーペイント」のバンドル契約を締結した。その後、短い期間に前記した「キューティ・アルバム」と「キューティ・マスコット」のバンドルも次々と依頼されることになったが、それぞれはPerformaの機種によりバンドル “する・しない” が決められた。 
しかし、短い期間だったとはいえ、同時期に一社の製品が3種もバンドルされることは海外は勿論、国内でも他に例はなかったこともあり、一部の方からは「偏りすぎているのでは…」といった陰口も叩かれた(笑)。 
言いたいことはよくわかる。デベロッパーの数は当時としても1,000社を超えていたし、その内ソフトウェア開発会社の数は少ないとはいえ絶無というわけではない。したがってコーシンのソフトを2つ削って他社メーカーの製品を採用すべきだという意見は一理ある…。 
中には「コーシンはアップルとパイプが太いからねぇ…」と嫌みに取れる発言もあった。しかしそれは買い被りであるし、アップルはそんなに甘い企業ではない(笑)。 

当時私は新製品が完成間際になると、必ずアップルのデベロッパー担当部署の責任者に報告すると共に、アップルのプレゼンルームでその仕様やコンセプトと共にアプリの魅力をアピールするためプレゼンテーションを欠かさなかった。したがってその成果もあったとは思うが、アップルから言わせれば、他社製品を採用したくとも当時は眼に叶う製品が他になかったと同時に、私たちの製品はアップルの考えるコンシューマー向けのコンセプトに合致した結果だった。 

さて、私の期待は無論そのバンドルの売上がどの程度になるかという一点にあった。一本当たりの価格が極小だったとしても、Performaの機種によっては四半期で数万台から数十万台は売れるはずだ。しかしこればかりは四半期が経過し、アップルからの販売報告があるまではまったく予測はできなかったのである。 
最初の3ヶ月が過ぎたとき、大きな驚きと共に達成感を感じる嬉しい結果が現れた…。 
当時は現在のように電子メール全盛ではなかったから、毎日出勤するとまずはFAXの受信を確認するのが日課だった。 
あるの日の朝、アップルから3ヶ月分の売上報告書が届いていた。正直それを見て躍り上がりたい思いを抑えられなかった…。なぜならそこには○千万円の売上額が記され、「今月末にご指定の銀行口座へ振り込みます」という旨が記されていたからだ。 
自身で言うのも変だが、営業力の成果だとはいえ、労力的にはほとんど何もせずに大金が転がり込むことになったのである。 
幸い当時は事業の景気はよく、すべてが順調に進んでいた時期だったから、そのバンドルの売上高はまったくの”あぶく銭”だった。当時の私はいま考えても意外と冷静で、結果を喜びながらも「このバンドルの売上を当てにしてはいけないな…」とも感じていた。 
その思いは残念ながら一年ほどで現実のものとなる。Performaの売上が急速に落ちたのである。 

当初から覚悟していたことだが、バンドル功罪の”罪”の方も少しづつ現れてきた。正規のパッケージ製品の売上が落ちてきたのだった。それがすべてPerformaバンドルに機縁するわけではないだろうが…。 
またおかしな現象にも気がついた。それはMacWorld Expo/Tokyoなどでブースを運営し、例えばデモをしている「ムービーペイント」を気に入っていただき、ありがたいことにその場で買いたいと言われる方も多い。そんなとき、念のために「お使いの機種はなんですか?」とお聞きすると、その機種はすでに「ムービーペイント」がバンドルされている機種だったケースが多くなった。 
これは明らかにバンドルされている製品の価値を認識していないことになる。「オマケで同梱されているから大した物ではない」といった無意識の判断もあるのかも知れない。これではアップルの意図は完全に外れていることになる。何のためのバンドルだったのか…ということになる…。 

ともあれPerforma戦略は失敗と評価され、バンドルによるバブリーな時代は脆くも崩れた。しかしあの朝日が差し込む早朝、まだ誰もいないオフィスでアップルから届いたFAXを見た瞬間の感激はある意味で一生の思い出となった(笑)。