私はしばしば「あなたは膨大な資料をお持ちなのですか?」と聞かれることがある。確かにこれまでの経緯で一般ユーザー諸氏とはいささか異なった視点からMacにアプローチし、そして体験・経験をしてきたことは確かだが、そんなに特別な資料が多々あるわけではない。しかしいくつか頼りにしている書籍があるのは事実であり今回はそれらをご紹介したい。

 

私がMacに関わる歴史的事柄を調べるとき、一次資料は自身の体験である。これはその場に私がいたのだから事実関係に間違いはない…ないはずだ(笑)。
そしてこれまた個人的なことではあるが、パソコンの誕生期といわれる1977年から約10年間にわたり自身で使ってきた多くの機種やその周辺機器、あるいはそれらとの関わり合いを写真に記録したアルバムが残っており、これは私にとって重要文化財級の資料となっている。

次に頼りになるのはやはり書籍類だ。ただしMacおよびAppleの歴史や旧聞に属する記事などの事実関係やその時期などを特定するには、複数の情報をつき合わせることが必要である。なぜならそれが例え本人に対するインタビュー記事だとしても、勘違いや聞き手の予備知識により、事実とはいささか違うニュアンスで記述されることも多いからだ。
もっとも便利なのがインターネットによる検索だが、これらの情報は十分に裏をとらないと誤った内容もあるのでその判断はなかなか難しい。

さて事典・辞書類も重要だ。しかし一般的な辞書類の使い方と違いしばしば10年も前とか、20年も前の社名や商品名、テクノロジー名などを確認したいことがあるので「辞書・事典は最新版がよい」といったことは当てはまらないのである。
なぜなら最新刊の辞書にはすでに使われなくなった、あるいは死語となり消滅したテクノロジーの名や製品名、企業名などは削除されていることが多いからだ。したがって、事典類は最新版が必要なことは勿論だが、同時に古い事典類も捨てずに取っておくことが肝要である。
そこで、今回は私が日々お世話になる基礎資料的な書籍の一部をご紹介させていただくことにしよう(順不同)。
これらの中にはすでに絶版になったものも多いと思うが、もしこれらの書籍が書店の棚にポツンと置かれているようなケースがあったら、あるいは古書店にあったら迷わず手に入れておくことをお勧めしたい。
なお以下すべての書籍は日本語によるものであり、その順番に意図はない。

●「パソコン革命の英雄たち~ハッカーズ25年の功績」P.フライバーガ/M.スワイン著 大田一雄訳 マグロウヒルブック刊

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 1985年2月25日初版。チャールズ・バベッジあたりのコンピュータ以前から1960年代、70年代に台頭するパーソナルコンピュータに関わってきた有名・無名の人たちに光を当てようとする意欲作だ。スティーブ・ジョブズとマイク・マークラの写真、初期(1976年)コンピュータショウのアップルブースにスティーブ・ウォズニアクらと一緒にいるまだヒッピーの面影を残している若かりし頃のスティーブ・ジョブズの姿などは今となっては貴重である。

 

「Macintosh そのインテグレーテッドソフトの世界」ケリー・ルー著 酒井邦秀訳 アスキー刊

初版は1985年1月25日。本書はマイクロソフトのビル・ゲイツとアップルのスティーブ・ジョブズの会話から生まれたというMacintosh関連本としても最初期に刊行された一冊。

 

●「マッキントッシュ実践操作入門」松田純一著 技術評論社刊

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初版は1989年9月15日。Macintoshの生い立ちから当時の機種選択、日本語環境ならびに基本操作だけに留まらず、賢いショップの選び方までを網羅した入門書。

 

●「QuickTimeの手品」松田純一著 技術評論社刊

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初版は1993年2月5日。1991年に産声をあげたQuickTimeだが、本書は翌年にリリースされたversion 1.5をサポートしパーソナルコンピューティングの未来を見据えたQuickTimeの解説から応用までを紹介。

 

●「入門マッキントッシュ」ジオデシック編著 日本実業出版社刊

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初版は1988年1月30日だから、国内のMacintosh関連書籍としては最初期に刊行された一冊。当時はまだまだMacユーザーは少なく、この手の書籍の発行を企画すること自体、大きな冒険だった。本書は副題「コンピュータをいろいろ知りたい人のために」とあるように、当時のMacintoshのすべてを紹介すべく企画されたもの。Macintoshの歴史とその背景から最新のハードおよびソフトウェアに至るまでが網羅されている。ちなみに本書の「Macはアートするか?」というグラフィック関連ページの項は私の執筆による。

 

●「林檎百科~マッキントッシュクロニクル」SE編集部 翔泳社刊

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初版は1989年8月25日。アップルという世界で最初に実用的なパーソナルコンピュータを創り出し、さらにMacintoshを生み出した企業の歴史を追いながら、アップルとパーソナルコンピュータに関わる人々の夢と挫折の物語が語られている一冊。アップルの話だけでなく、それ以前や時代の背景までが語られているのが特徴か。

 

「Macintosh COMPLETE」 ビジネス・アスキー刊

初版は1990年3月15日。その帯にもあるように本書は「日本初のマッキントッシュ事典」というのが売り。主要ソフト200本、PDS 70本、関連用語約600語を網羅している。装丁も革張り風な豪華本だ。

 

●「マッキントッシュの事典」大谷和利編著 日本実業出版社刊

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初版は1989年9月20日。副題の「Macの世界をもうちょっと深く広げる」とあるとおり、また書名のとおりカテゴリー別の事典形式になっている。最後のページにはインデックスもそろっており、当時のMacintoshユーザーはそろって購入した一冊だった。ちなみに「Graphics」の項の24ページ分は私の手による執筆である。

 

●「Macintoshなんでも用語事典」インターアクティブ著 技術評論社刊

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初版は1993年3月25日だが、私の所持している第3版第5刷は1996年7月25日発行の一冊である。本書はその名のとおり写真も豊富なMacintosh関連用語の事典である。索引もしっかりしているのでこの時期に関わる用語を調べる際には重宝する。

 

「Macの達人」紀田順一郎+松田純一著 技術評論社刊

初版は1989年1月25日。Macintoshユーザーであり、評論活動や多くの著作を持つ著名な紀田順一郎さんと私との共著。紀田先生との約3年間(1985年11月から1987年12月末まで)、FAXを使って情報交換した内容を紹介するもので、当初は当時まだ目新しかったファクシミリによる情報交換をテーマにした企画だった。しかしその内容のほとんどがMacintoshに関わることなので企画自体が軌道修正となり、結局Mac本となった。年月日が明確に示されているので私にとっても大変貴重な日記的な資料となっている。

 

●「マッキントッシュ伝説」斎藤由多加著 アスキー出版局刊

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初版は1996年2月21日。本書は1960年代にさかのぼり、現代のパーソナルコンピュータの源流を探ろうとするインタビュー集。インタービューで登場するのはスティーブ・ウォズニアク、ジム・ウォーレン、レジス・マッケナ、ダクラス・エンゲルバート、アラン・ケイ、ジェフ・ラスキン、ジョン・カウチ、ジョアンナ・ホフマン、ビル・アトキンソン、ジェームス比嘉、ケン・クルグラー、そして大河内勝司の12人である。

 

●「林檎の木の下で」斎藤由多加著 毎日コミュニケーションズ刊

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初版は2003年10月10日。1996年4月21日初版の同名本のリニューアル版である。青い眼をしたアメリカ製のパソコン「Macintosh」が日本に上陸するその軌跡を描いたノンフィクション。Macintoshの日本市場を知るには避けて通れない一冊といえよう。

 

「アップル・コンフィデンシャル 2.5J (上下)」オーエン・W・リンツメイヤー+林信行著 アスペクト刊

初版は2006年5月9日。オーエン・W・リンツメイヤー著「アップル・コンフィデンシャル」(初版2000年1月12日)にITジャーナリスト 林信行氏が最新事情ならびに国内に関わる情報を大幅に加筆したビジネス・ノンフィクション。アップル誕生から貴重なエピソードで綴るリアル・ストーリー本。他の書籍などでは得られない内容も多いのが魅力である。Apple通になるには格好の一冊だろう。

 

●「マッキントッシュ・ガイド・ブック」仲野洋士著 ソフトバンク刊

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初版は1998年2月25日。本書はMacPlusから1998年2月までに出荷されたMacintosh本体のスペックを中心に紹介したもの。現在ではこの種の情報はウェブでも取得できるが、ロジックボードの図やI/Oポート図などもあって重宝な一冊である。ただし1998年以降に関する新刊が登場しないのが悔やまれる。

 

●「Apple Design~アップル・デザイン」ポール・クンケル著 大谷和利訳 アクシスパブリッシング刊

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初版は1998年7月10日。副題は「アップルインダストリアルデザイングループの軌跡」とあるが同名の著作を書籍デザインの面からも忠実に日本語版とした豪華本である。その名のとおり、Appleで製品化されたものだけでなく、モックアップだけで世に出ることはなかった幾多の魅力的なデザインを持つ機器が美しい写真と共に紹介されている。そして開発コードネームや開発時期、デザイナーの名なども明記されている。そして前後にはAppleの歴史やデザイン面からみた、それぞれの製品に関する目新しい情報も満載されている。

 

●「MacOS進化の系譜」柴田文彦著 アスキー刊

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初版は2002年11月1日。MacOSの進化をたどりながら、主としてSystem 7までのポイントを解説するユニークな一冊。それぞれのバージョンに関わる機能やポイントは勿論、ユーザーインタフェースにいたる解説がある。しかしMac OSの本といってもプログラミング本ではないので、MacOSの系譜を物語として読んでみていただきたいと思う。

 

●「Mac OS進化の軌跡」柴田文彦著 アスキー刊

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初版は2005年4月5日。前記「MacOS進化の系譜」柴田文彦著 の続編ともいえるものでMac OSの実像ならびに存在意義を考証する一冊。

 

●「未来をつくった人々」マイケル・ヒルツィック著 鴨澤眞夫訳 毎日コミュニケーションズ刊

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初版は2001年10月1日。「ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明」とサブタイトルがあるように、パーソナルコンピュータの誕生に大きくかかわったゼロックス社のパロアルト研究所にかかわる人々を描く。パロアルト研究所(PARC)が若き天才たちを集める産みの苦しみから、探索と歓喜の時代を経て第1世代のメンバーたちがその発見を世界に運ぶべく分散していくところまでを描いている。

 

●「THE COMPUTER」クリスチャン・ワースター著 ダッシェン・ジャパン刊

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初版は2002年12月31日。魅力的で貴重な写真でコンピュータの歴史を紹介するユニークな書籍。

 

●「レボリューション・イン・ザ・バレー」アンディ・ハーツフェルド著 柴田文彦訳 オライリージャパン刊

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初版は2005年9月25日。Macintoshの開発者のひとりとして知られているアンディ・ハーツフェルドによるMacintosh誕生の舞台裏を紹介した一冊。開発者だからこそ描けた開発チームの情熱・試行錯誤・葛藤・喜びそして挫折のすべてを描いた生々しいドキュメント。

 

●「マッキントッシュ用語事典2003年版」MacPOWER編集部編 アスキー刊

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初版は2002年4月1日。前項の「日経パソコン用語事典2003」とは違い、本書はMacintoshに特化した用語事典の最新版である。ハンディタイプであり、扱いやすいのが特徴。

 

以上、黎明期のパーソナルコンピュータ…それもMacintoshに関わるあれこれを知っていただくのに適当な書籍をご紹介してみた。これらの中には例えばスティーブ・ジョブズ個人にフォーカスした本などはあえて避けたが、それらおよびその他にも有益なものが多々あることは申し上げるまでもない。

それらの書名だけを記せば「スティーブ・ジョブズ〜偉大なるクリエイティブ・ディレクターの軌跡」アスキー刊、「取り逃がした未来」日本評論社刊、「アップルを創った怪物」ダイヤモンド社刊、「スティーブ・ジョブズの流儀」ランダムハウス講談社刊、「どうなるパソコン業界〜ドゥヴォラックの大予言」翔泳社刊、「アラン・ケイ」アスキー刊、「ブートストラップ」コンピュータエージ社刊、「Macintosh的デザイン考現学」毎日コミュニケーションズ刊などなどだ。その他、「Mac Fan」をはじめ「MACLIFE」「Mac Japan」といった月刊誌やMacworld Expoのガイドブックならびに各時代のMacintoshユーザーズガイド、そして千数百枚にもなるフロッピーディスクによる当時のアプリケーションの現物なども各時代時代のリアルな内容を知り得る優良な資料である。

こうした資料を縦横に眺めているとMacintoshの歩んできた25年という四半世紀の歳月がまさしく私の血肉とっなっていることを実感せざるを得ない…。