若かりし頃の強烈な衝撃を思い出した…。今般Poser用フィギュアとしてこれまで手にしたことのない “BJD” という作品を初めて購入した。その怪しげな雰囲気に若かりし頃傾倒したハンス・ベルメールを連想したからだ。 

いくつかのPoser関連サイトで “BJD” という言葉を眼にするようなった。最初は何のことか分からなかったがそれが “Ball Joint Doll” すなわち「球体関節人形」といった意味だと知ったとき、思わず購入ボタンをクリックしていた(笑)。 

私はこれまでPoserフィギュアを人形として扱う意図はまったくなかった。あくまで実写のモデル代わりを目指すという意味で、いかにリアルであるか…例えば人物の写真にいかに近づけた表現ができるかを追いかけてきた。したがって裸のフィギュアに好みの衣装を着せ、好きなポーズを取らせて喜んだりなどは… “ほとんど” していない(笑)。 
さまざまな機会のある度に主張してきたとおり、私のPoserフィギュアに対する嗜好は良くも悪くも仕事がらみであり、遊びの要素を追求する時間がなかったともいえる。 
さて、冒頭に記したハンス・ベルメールだが、私はフランス文学者の澁澤龍彦一連の書籍により彼と彼の作品群を知った。確か25歳のことだったが「幻想の画廊から」(澁澤龍彦著/美術評論社刊) に掲載されていたハンス・ベルメールの球体関節人形のモノクロ写真数点を見たとき、血液が逆流するような衝撃を受けた…。 

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※「幻想の画廊から」(澁澤龍彦著/美術評論社刊〜1972年刊6版) よりハンス・ベルメール作の人形 

ハンス・ベルメール(Hans Bellmer 1902-1975)はポーランド出身の画家であり、グラフィックデザイナー、また写真家としても知られているが何よりも彼を有名にしたのは等身大の少女人形を制作したことだ。 
このシュルレアリストの詳細な解説は私の手に余るし、時間もないので避けるが、四谷シモンなどなど日本の人形作家のみならず、多くの芸術家たちに強い影響を与えた。 
もともと人形というものは「ヒトガタ」であり、古代から何らかの呪術的な意図に用いられたことは知られている。そして私たちも人形は作り物であることは理窟で分かっているものの、一辺の心みたいなものが宿っているのではないかと感じるときがあるほど不思議な存在でもある。 
私も一二度、ハンス・ベルメールの影響でゼロから人形を作ってみようと試みたことがあったが、結局ノウハウもなく上手くいかなかったものの、それを捨てるときにとても躊躇した思い出がある。 

ところでハンス・ベルメールの球体関節人形はいくら「人形や女性の身体に対する興味や偏愛から生まれたというより、自分自身のイマジネーションへの愛を表現した」などと説明されても、我々のエロティックなイマジネーションを揺さぶることに間違いはない。前記した澁澤龍彦も、ハンス・ベルメールの制作する人形は彼の理想の女であり、かつ自己愛の投影であるとも言っているが、別途「不思議の国のアリス」の作者であるチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(ルイス・キャロル)と同様に「少女崇拝者」であり、イマジネーションの上では色情的殺人鬼に繋がると言った評論をしている。さらに「軽犯罪的なセックスの妄執を、美に昇華させることができた芸術家は幸いである。ハンス・ベルメールは、そのような希なる資質に恵まれた、特異な画家というべきであろう」とも書いている。 

私はといえば、その写真集を正面から凝視できないほどの衝撃を受けつつ、逆にその球体関節人形から眼を離せないといった矛盾を感じたものだ。それは端正なオブジェでもあるし、突然動き出しそうな気配もあり、よく見ればまさしく切り刻まれた死体のようにも思えた…。そしてふと瞬きをした瞬間、その人形は得も言われぬような美しさを見せるのだった。 
ハンス・ベルメールの作品をながめていると、自身の心の闇が浮かび上がってくるようにも思えて当時はその写真集をポルノ写真を扱うかのように、書棚の奥に隠していたものだ(笑)。 
そもそも球体関節人形とは、人形の関節部が球体によって形成されている人形の総称である。その仕様により自在なポーズを取らせることが可能なことも表現の多様化に貢献しているといってもよいだろう。 
その作家として最も有名なのは、分解した球体関節人形をシュルレアリスティックに再構築して見せたハンス・ベルメールその人であった。その影響から日本でもこの種の人形を造形する作家が急増したといわれている。 

さて、私にその球体関節人形を思い起こさせた”BJD”とはどんなフィギュアなのか…。今回私が初めて購入したそれはベースフィギュアの「BJD」と「Lolita Dress Set & Olivia」など関連オブジェクト数点である。残念ながらBJD新参者の私には詳しいことを語る資格はないが(笑)、いくつか調べてみるとStudio Mayaというサイトにたどり着いた。作者は日本人のアーティストだった! 

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※Studio Mayaの”BJD”に別途衣装を着けてポーズを取らせてみた例。これは…クセになりそうな可愛さだ(笑)

一般的に人形作家というと日本では四谷シモンとか辻村寿三郎などが有名だが、私などが申し上げるまでもないものの、この “BJD” の作者も間違いなく素晴らしい3D人形作家のお一人である! 
ただし誤解があってはまずいので念のために記しておくが、Studio Mayaの “BJD” がハンス・ベルメール的であるというわけではない。あくまで私の記憶あるいは妄想の中で両者が重なっただけだ。 

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※Studio Mayaの”BJD”に前記のハンス・ベルメール作の人形と同じようなポーズを付けてみた。そしてわざわざモノクロにしてみたが…これは大いに妖しい(爆) 

ということで今回あらためて気がついたのだが、私がなぜPoserというアプリケーション…3Dフィギュアが好きなのか…。それは20歳代のときに巡り会ったハンス・ベルメールの球体関節人形の呪縛からまだ解き放たれていないからなのかも知れない(笑)。