
8月26日発売の晋遊舎刊ムックシリーズ「All About Apple」によれば、日本のMacカルチャーの草分けとして今も語り継がれているMac専門誌「MACLIFE」が復刊するという。「MACLIFE」発刊の最初期からライターとして協力していた1人としては単純に喜ばしいことだが、廃刊から約10年の時を経た現在、単に冠を同じにしただけで読者の支持を得られるのだろうか。
一時期はMacの専門誌が乱立していた時代もあったが本が売れなくなった世相でもあり次々と廃刊に追い込まれた現在ではご承知のようにMac FanとMac PeopleそしてMacPower誌くらいしか残っていない。そんなMac雑誌の中でもひときわ強烈な印象が残っている雑誌といえばやはり「MACLIFE」であろう。
それまでいわゆるパソコン雑誌というものは存在したが我が国ではMacの専門誌はなかったし、パソコン関連雑誌といえばどこか野暮な表紙でマニアックなものと決まっていた。しかし「MACLIFE」は表紙のデザインひとつとってもスタイリッシュで毎号が楽しみな雑誌であった。
無論発刊当時は我々の前にインターネットも無かったから、最新情報は細々と始まったパソコン通信か雑誌に頼る必要があったのだ。
※8月26日発売の晋遊舎刊ムックシリーズ「All About Apple」に「MACLIFE」復刊の告知がある
「MACLIFE」が復刊…という情報はライターの1人として最初から関わっていたから素直に興味があるし嬉しい。しかし大きな疑問も残る。
雑誌のタイトルやらそのコンセプトはレストランに例えれば店名であり料理の質や味に相当する一番大切なものだ。店名はある意味でどうにもでもなるとしても料理そのものはシェフが変わってしまえば同じ味は望めないのが普通である。
「MACLIFE」はいってしまえば「MACワールド日本語版」を立ち上げるためにPCワールドジャパン社が招聘した高木利弘さんという編集長の感性と情熱から生まれたものだ。ちなみに1987年「MACLIFE」という雑誌が生まれる背景については別途「我が国最初のMac専門誌「MACワールド日本語版」顛末記」を参照いただきたいが、毎月何回も編集部に通っていた1人として思うことは「MACLIFE」という雑誌は時代背景と編集長の個性、そして僭越ながら我々ライターの情熱により生まれたものだと確信している。
その個性的な雑誌を名称とロゴデザインを同じくしたからといってもはたしてそれは昔の「MACLIFE」を知っている我々が驚喜する「MACLIFE」であるのだろうか?
※1987年8月に発刊された「MACLIFE」誌創刊号表紙
ところで晋遊舎は何故Mac…いやAppleの情報誌を発刊するに当たり「MACLIFE」のいうタイトルにこだわったのだろうか。新しい雑誌を企画し発刊するのであれば雑誌タイトルなどいくらでも自由に考えられるに違いない。それをわざわざ一世を風靡したとはいえ「MACLIFE」というタイトルにしたのにはそれなりの思惑があったと見て当然だ。
それも「All About Apple」誌の告知にはまさしく「MACLIFE」というタイトルロゴも以前のままになっている。であるならiPodやiPhone、iPadといった新しい製品を機会にAppleユーザーとなった人たちはもとより、古参の…というべきか、昔からAppleのカルチャーを愛し現在も愛し続けているこれまた多くのユーザーをも取り込もうとする魂胆に違いない。
「ああ、MACLIFEが復刊か。懐かしいなあ。俺あの表紙デザインが好きでさあ…」といったユーザーを意識したからこそ「MACLIFE」という雑誌名とロゴをそのまま使い、発刊ではなくわざわざ “復刊” と告知したに違いない。そして話題性としても抜群な知名度だ。
だとすれば大きなお世話であるが、肝心要の…レストランであればシェフに相当する…編集長は昔通り高木利弘さんでなければならない(笑)。
無論その「MACLIFE」も2002年廃刊に至るまでの数年間は高木利弘さんは離れているからすべての号が高木利弘さんの仕事ではない。しかし間違いないことは「MACLIFE」というMac情報誌を成功させ、後発の目標となるべく雑誌にしたのは高木利弘さんの力によるものだ。
したがってあくまで「復刊」と銘打つなら一歩譲り、編集長でなくても例えばアドバイザーという立場でも高木利弘さんを担ぎ出し編集企画の要に推すのでなければ個人的に私の「MACLIFE」は復刊しない(笑)。
いまのところ晋遊舎の告知からそうしたことはうかがい知ることはできないものの「All About Apple」にはその高木利弘さんご自身も「元MACLIFE編集長」として写真入りで載っているから可能性があるかも知れない…(笑)。
とはいえ雑誌という時代の空気をいち早く関知し、上手に取り入れることが必要なメディアが一昔前の体裁を整えた…「昔の名前で出ています」「編集長も同じです」と言って成功するほど世の中甘くはない…。なにしろ当時とは時代環境がまったく違う。
復刊の「MACLIFE」はインターネットを核にTwitter、Ustream、YouTubeといった様々な新しいメディアが乱立する中で登場することになる。単純に昔の香りを漂わせるだけでは無論成功しないだろう…いまは難しい時代なのだ。
それにもともと2002年に廃刊となった「MACLIFE」は出版業界の不景気にも煽られたわけで本が…雑誌が売れなくなった時代である。今はAppleが勢いづいた時代とはいえ今も出版業界はその存続でさえ危ぶまれている時代に新しい雑誌が簡単に売れるとも思えない。しかし晋遊舎といえばこれまでにもMacは勿論iPhoneやiPadのムックを多数手がけている出版社だからそれなりの勝算はあるのだろうが…。
そういえば「All About Apple」誌の告知には「蘇る」「復刊」とあるが、それが電子メディアなのか紙ベースの雑誌なのかは書かれていない。
繰り返すが「MACLIFE」という雑誌が登場することは業界に足を突っ込んでいる1人として、1987年に発刊した当時から「MACLIFE」に関わってきた1人として、だからこそ「MACLIFE」という雑誌にこだわりを持ち続けてきた1人として素直に嬉しいし期待したいところだが、それが単に包装紙だけを真似たものであるなら私にとってまったく無用の物である。
■晋遊舎