
iPadならびにiBooksやi文庫 HDといった環境が整ってきたからだろう、いわゆる電子書籍がさまざまな面で注目を浴びている。手っ取り早いのは自身の所有する書籍を電子化すなわちPDF化することだ。そのための専門会社も数社立ち上がったし個人レベルでそうした作業を可能とするページスキャナや裁断機も売れているという。
私自身もご多分に漏れずかなりの本を所有しているが保存スペースの確保に困っていることは確かだ。しかし集めたお気に入りの書籍を裁断し電子化するつもりはないものの日常資料として活用頻度の高い書籍は電子化した方が利便性がよいことも理屈ではわかっている。したがってカタログ類など、自身で作業しやすいものは少しずつPDF化しているが数百ページにもなる本を、それもかなりの冊数を自身で電子化する気力はない(笑)。
とはいえ一度は試してみたかったのが専門業者への電子化依頼である。試しもせずにあれこれ物言うのも無責任だと思うし、申込みから納品にいたるまでのプロセスも体験してみたかったのでまずは試しと自分の書いた書籍「Macの達人」(紀田順一郎先生との共著)を含め数冊を送ってみた。
すでに利用されている方も多いかも知れないが電子書籍化、すなわちPDF化はオプションとして本文検索を可能とするOCR化のサービスもあるので今回はそのOCR化を含めた申込みをした。問題はどの本をお願いするかである。
まずは堅いことをいうようだが専門会社のサイトにある注意事項などを確認してみたものの、何だか著作権がらみの問題はグレーゾーンが多々存在する感じでどうもすっきりしない。なぜなら「著作権について」という注意書きのページに以下のような記述がある。
書籍は、音楽CDや映像DVDと同様に、著作権によって保護されています。
1.お客様からお送り頂いた書籍は、著作者の許可を得ていると判断し処理をします。許可が得られない場合はご自身でスキャンしていただくか、スキャンをご遠慮下さい。
2.スキャンによってPDF化された書籍データは、私的利用でのみご利用下さい。他者への譲渡や販売行為はおこなわないで下さい。ネット上への公開や不特定多数の方に閲覧される状態にしないで下さい。
まあ2.については当然だ。例え自身が購入した本であってもデジタル化したものを権利者に無断で配布しては著作権を侵害することになる。これは業者にPDF化を頼む場合だけでなく自身で電子書籍化した場合だって同じ事だ。しかし1. の注意書きは厳密に考えると無理があるように思える。
何故って…申し上げるまでもなく一般に流通している書籍のデジタル化に際して権利者に許可を受けるなどということは現実的に無理である。ましてやサービスの一環としてAmazonなどで購入した書籍を直接業者に送ってPDF化することもできるわけで、実際に「著作権に関しては関知しません」という意味なのだろうが「…著作者の許可を得ていると判断し処理をします…」という物言いは釈然としない。
そもそも書籍をデジタル化するということは複製を生むことである。複製を生むことは当然のことながら著作権の問題を抜きにして先に進めないはずだ。
では個人が正規に購入し所有している本をユーザー自身が自分のためにデジタル化することは問題ないのだろうか…。これは一般的に私的目的に限定したコピーということで容認されていると考えられる。
また業者に書籍を送り、デジタル化してもらうことが法的に問題ないのであればそれは前記した書籍所有者の私的な目的のためのコピーを代行するだけだから…という解釈なのだろう。その上、業者側は著作権に関する問題を内にかかえないため前記したような書籍の購入者自身に面倒な部分を押しつけざるを得ない形になっているが、すでに見たようにこの記述は常識的に考えて正当化するのは無理があるように思える。
そして業者側は依頼毎にスキャニングが終わった書籍は処分(オプションで送り返してくれる業者もあり)するとしているしかつ電子化したデータは他に転用・流用しないとしているがこの点も信用するしかない。しかし仮定の話として、もし流行作家の作品など今後同一書籍についての電子化依頼が多数舞い込むケースを想定するなら、同じ作業を毎回するより電子化したデータを保管し別の依頼者にもそのデータを転用した方が合理的だ、しかし無論それは著作権を犯す行為となるだろう。
それから心配事はもうひとつある。それは高価な書籍というよりすでに絶版になってから久しい本を業者に送った場合、裁断などの作業工程中に万一数ページ大きく破損したり、顧客から受け取った書籍を順番待ちしている課程で紛失したりといった可能性もまったくゼロではないはずだ。業者のホームページには「高価な本は送らないで下さい」といった意味の説明もあるが価格的な問題でなく万一の場合、同じものが容易に手に入らないものもあり得るからちょっと怖い…。
まあまあ、こうしたチマチマした心配をするならやはり自分で裁断し電子化するのが正攻法なのだという気にもなってくる(笑)。
御託をあれこれと並べてしまったがともかく初めて業者に電子化してもらったうちの一冊が「Macの達人」(紀田順一郎氏と筆者の共著)である。実は個人的に同書を開く頻度が高いからでもある。なぜなら手前味噌ながら同書は単なる古いパソコン関連本ではなく紀田先生と私とが特別な時代に取り交わした詳細でリアルな記録集だからである。
例えば私自身が初めてMac Plusを見たのは1986年2月11日だったこと、ユーザー主導で行われた日本初「アップル・コンベンション」は1986年7月19日に開催されたこと、あるいは演算星組の井上社長ら総勢6名で当時青山にあったアスキーに初めて出向いたのは1987年4月5日だった、さらには新しいグラフィックソフトとしてリリースされたIllustrator 1.0を購入したのが1987年5月24日…といった今では調べるのも困難なあれこれが記録されているのだ。
他にこの種のソースがほとんど存在しないことでもあり、自身の調べ物する課程でよく同書を開かざるを得ないことになる。しかし240ページほどの小振りな本だとしてもひとつのワードを探し当てるのは手間がかかるのでこの種の書籍はいつか電子化したいと考えていたわけだ。
※電子化された「Macの達人」のPDFアイコン拡大図
さて書籍を宅配便で送ってから約4週間近くなるので念のため「まだですか?」の問い合わせをしたらやっと作業完了のメールが届く(笑)。しかし当初Webページで告知のあったダウンロードサービスのためのサーバが変更になったとのことで、事前に当該サーバーに登録したことは無意味となる。挙げ句の果てに新しいダウンロードサーバーのURLにアクセスするもどういうわけか教えられたIDとパスワードが入力できないというトラブルが…。
そのことをメールで知らせると「少々ファイル容量は大きいが無料で大容量ファイルのメール送信サービスを用いて送っても良いか」という問い合わせが入ったので「結構ですよ」と回答する。笑ってしまったがその2時間後「容量制限が100MBのため、別のサービスを利用させて頂ければと思います」と別のURLからダウンロードしてくれという指示が入る。
結果として当然ではあるが目的のPDFはダウンロードできたので良かったが、私が電子化を依頼した業者は自社サーバーを持っているわけでもなくこの程度の認識しかなかったことに少々唖然とする。
料金が安いのは嬉しいことだが、安全確実にそして依頼側に余計な負担を強いることなく電子化したファイルが依頼者へ届かなければ何にもならない。無論別途CD-Rの送付サービスもあるが…。
冒頭に期したとおり、始まったばかりとはいえこの種のサービスの申込みから受領までのプロセスを実際に体験してみようとした試みはある意味大いに成功したといえよう(爆)。
こうして領したPDFのファイルをMacintoshで開きともかく確認の意味を含めて検索してみたが、最初はちょっと戸惑った。なぜなら検索が上手くいかないのだ。
あれこれと思い当たる対処はしたつもりだが検索フィールドに入力したテキストで検索ができなかったり検索後の文字列を示すハイライト表示部位が完全にずれるという結果に…。
※本例では検索した結果のハイライト部位が実際のテキスト部位と大きく違っているしハイライトは横書き対応になっている
原因は分かってしまえば単純なことだった。それは私の場合、PDFファイルをディフォルトでオープンするアプリケーションがAppleの「プレビュー」だったことにある。ちなみに本家Adobeの「Acrobat Reader 9」で開いて見たら検索ならびに検索後のハイライト表示も問題なく使えたのでホッとする。
※Acrobat Reader 9で開き検索すると正常に検索ができた(上)。またキャプションに対しても検索が行き届いている(下)
また別途 iPadの「i文庫HD」用に表紙もつけて読み込み使い始めている。こちらは今のところ検索には適していないが参照するには便利である。
※iPad向けアプリ「i文庫 HD」に表紙イメージと共に「Macの達人」電子版を登録した例(上)とページめくりのエフェクトを使い閲覧しているイメージ(下)
こうして初めて電子書籍化した自身の書籍は確かに利用しやすくなったが当然のことながら物理的な一冊は失われたわけで別途保存している一冊はあるものの少し残念な気持ちも払拭できず正直複雑な思いだ。
ともかくこれを機会に同じ本を複数冊所有している書籍をいくつか電子化してみたいと考えている。
まあ一番重要なのは読まない本は処分すべきなんだろうが、これがなかなかできないのである(笑)。