
近年ラジオは確固たるユーザーが存在するものの古いメディアといった見方をされてきた。テレビは勿論インターネットの普及の中で忘れられがちなメディアだったがこの3月15日から試験的に配信が始まったIP サーマルラジオ「radiko」が注目を浴び始めた途端に水を差すような出来事が…。
IP サーマルラジオ「radiko」はインターネットに接続しているパソコンがそのままラジオ受信機となるシステムであり、ブラウザからクリアな受信が可能となる画期的なサービスである。そのホームページには「ネットにつなげば、いつでもどこでも now on air !」とまことにありがたいうたい文句が…。
「radiko」は独立行政法人情報通信研究機構理事長、前大阪大学総長の宮原秀夫氏を会長に在京および在阪ラジオ局13社と電通による任意団体「IPサイマルラジオ協議会」が企画運営している実験配信だそうで、その目的は東京ならびに大阪地区の難聴取エリアを解消するためだという。
ただし radiko.jp の「IPサイマルラジオ協議会」ページには当該協議会の趣旨を「地上波ラジオ放送の聴取機会拡大と放送文化普及・発展のためにIPサイマルラジオの実用化を推進することを目的とした任意団体。IPサイマルラジオ実用化に必要な配信プラットフォーム構築に関わる技術的検証、放送通信領域の法体系の整備状況の調査研究、音楽著作権・著作隣接権など配信に関する権利問題の調整、事業化フィジビリティ、広告マーケティング領域の調査分析を行う。」とあり、挙げ足取りをするつもりはないものの特に難聴取地域向けとは説明されていない。
※radiko.jpのトップ画面
私は「radiko」がスタートしたときすぐに使い始めた。なぜならこれまでにも機会があるごとに書いてきたがラジオ愛聴者の一人であり仕事中はもとより外出中もiPhoneの中の音楽と同じほどの時間をラジオ視聴に費やしている。
ここではラジオの魅力といったことに関しては触れないが、私が特に気に入っている文化放送の受信状態が良くないことでもありradikoに飛びついた次第。
とはいえ「radiko」は前記したように現時点では実験放送であり、メンテナンスやインターネット側の負荷などにより聴取できない場合もあることは承知しているがクリアなその音質にラジオというメディアをあらためて見直す機会になると確信した一人である。
さらに喜ぶニュースが入ってきた。それはiPhoneでこの「radiko」が聴ける「iradiko」のリリースである。AppleStoreに登録されたことを知って早速ダウンロードしたがそれは大げさでなく素晴らしい体験だった。
なにしろiPhoneだけでラジオ放送が聴ける…それもクリアな音質で聴けるわけで、これでもう外出時にiPhoneと共に携帯ラジオを持ち歩く必要がなくなったし使い勝手もよくまさしく良い時代に生きていると感激したものだ。
しかし4月7日に突然iPhoneの「iradiko」受信ができなくなった…。一時はiPhone側のトラブルかと再起動をしたりもするが結局「IPサイマルラジオ協議会」が権利問題を盾にセキュリティを強化したからだということが分かった。そしてAppStoreの「iradiko」もアクセスできなくなっていた。
確かに正当な権利は守らなければならないし報道されている以外の複雑な利権の存在もあるのかも知れない。しかし今回の処置はその目的に反する自虐行為のように思えてならないのである。
まず今風にいうなら「iradiko」などを排除した説明責任を十分に果たしていないということ。
「権利、権利」というがまず権利者、広告主などの具体的な主張が聞こえてこないし「エリア外の聴取を可能にするサービスが一般化しますと、実用化が困難になる可能性もある」と説明されているがなぜそれが問題なのかについての説明が不足している。
「今回のセキュリティ強化はラジオの楽しみを広げるための様々なアプリを排除することが目的ではありません。エリア外聴取環境の提供、収益を得るものなどradikoの存続を危うくするサービスに対する措置です。」という説明も聴取者の立場として正直よくわからない…。
まあ、我々には分からない縛りや苦労もあるのかも知れないし実用化を目指しているとはいえあくまで実験というからにはいつどうなるか分からないわけで聴けないからと文句を言える筋合いではないといわれれば確かにその通りである。
しかし忘れ去られてきた感のあるラジオがパソコンやiPhoneなどの携帯端末で活用されることはこれまでより多くの人たちに番組を聴いてもらえるということだ。無論広告収入を得ての放送は聴取率に日々ピリピリしいかにこの聴取率を上げるかに関係者は奔走しているわけだがまさしく「radiko」はラジオメディアを生き返らせる可能性を秘めていると思う。
それが「エリア外の聴取を可能にするサービスが一般化しますと、実用化が困難になる可能性あり」を盾に「iradiko」などのアプリを非公認と称し排除するのは本末転倒ではないだろうか。なにか「特定の受信機でなければ聴けません」と言われているみたいで違和感を覚える。
いや、彼らもいかに新しいビジネスモデルを構築できるかに躍起になっているのだろうから権利を守ることを正当化することはわかる。問題はその手順とやり方なのだ。
何故って「IPサイマルラジオ協議会」の蒼々たるメンバーはもとより、我が国のメディアを牛耳っている大手広告代理店まで絡んでいる立派な組織がこのIP サーマルラジオ「radiko」のようなシステムを公開すればどのようなことが起きるのかを予測できなかったというのだろうか…。
これだけ情報が行き渡っている世の中であり、インターネットやハード・ソフトに詳しい人たちがわんさと存在するいま、第三者が「radiko」と同種のシステムやそれを凌駕するようなアプリケーションを開発する可能性に意識が向かなかったとするなら…辛辣な物言いではあるがそんな団体に未来はない(笑)。それに直接の責任はないとはいえ、私のようにぬか喜びさせたリスナーにも失礼ではないか…(嗚呼)。
なぜ「radiko」が排除されたのか…。それは同種のあぷり「ラジ朗」が現在もAppStoreで配布され利用できることを考えると「radiko」の画面下に表示された広告が問題だったのかも知れない。ただし「radiko」をリリースするとき、同時にこうした第三者開発に対するガイドラインを明確にしておけば今回のような混乱と「IPサイマルラジオ協議会」に対する不信感は起きなかったのではないだろうか。というかきちんとした情報公開を行い、多くのアプリ開発者がしのぎを削るようになればメディアへの露出も格段に増えるだろうし、各局の目的も達せられるように思うのだ。そして万一そのガイドラインに沿っていないアプリがあればそれは排除されても誰も文句は言わない。
「準備に時間がなかった」とか「想定外だった」といったいいわけはこの種のサービスにあってはならないし、繰り返すがメンバーのメンツに関わる重大事と関係者は肝に銘じておくべきであろう。