
2008年夏以来お休みとなっていた紀田順一郎先生のホームページがリニューアルして再開された。嬉しい限りだが当該ページの「新着」情報ならびに「私の旧刊」ページに先生との共著「Macの達人」(技術評論社刊)が取り上げられ当時の状況などが紹介されている…。
2008年の夏、書籍好きの1人として多くのことを学ばせていただいていた紀田先生のホームページが休止という知らせをいただき大変残念に思った1人である。
評論家・作家としてご活躍されている紀田先生と知遇を得たことは大げさでなく私の人生におけるまさしくエポックメイキングな出来事であった。
紀田先生との交遊に関してはこれまでにも「紀田順一郎先生の古稀お祝いと出版記念会に出席」などでご紹介しているが、ともあれ本郷のESD社で知り合った私たちはお互いまだ珍しかったFAXを所持していることを知り、これを活用した情報交換を始めることになる。1985年の11月のことである。
その後3年間にもおよぶ交信記録が1冊の本となったのが「Macの達人 ー 紀田&松田のFAX交友録」だったのである。
たぶん最初はご挨拶をかね私が何らかのFAXをお送りしたのだろう…。「Macの達人」による最初の記述は紀田先生からの返信で「松田純一様 FAX拝見いたしました。非常に綺麗に出ています。」という記述で始まる…。
※1989年1月25日発行「Macの達人 ー 紀田&松田のFAX交友録」技術評論社刊表紙
いまでは信じられない事だが、私と紀田先生とがFAXでやりとりしていることを知った技術評論社の編集者が興味を持ってくれ「それを1冊の本にまとめてみよう」ということになった。ただしそのコンセプトはあくまで当時個人で持っていること自体が珍しかったファクシミリという最新情報機器の利便性をアピールすることだった。
「あとがき」にも記してあるが、約3年分のFAXの束を整理しているうち、その大半の情報がMacに関わることだと知った編集者から「これはMacの本にした方が面白い」ということになった。
1985年といえば前年に登場したMacintosh 128Kのメモリを4倍にした愛称Fat Mac (Macintosh 512K)が2月にリリースされた時代であり、まだ漢字Talkは登場していなかったのである。
しかしまあ、時代の勢いとはいえ今では紀田先生との共著など到底考えられない…。無論共通の趣味というか興味の対象だったMacintoshが話題の中心だったからこそ実現したことだが、正直私は紀田先生がどれほどの方なのか…よく認識していなかったのかも知れない(笑)。
先生は気さくに私が勤務していた事務所にお立ち寄り下さったしお茶の水にある山の上ホテルで食事をご一緒させていただいたりが続いたにしてもいまから思うと「いくらなんでも共著はないでしょ」とも思う(笑)。よくもまあ紀田先生はご承諾下さったものだと頭が下がる。
当然のことながら先生からはオンラインで、あるいはオフラインで多くのことを教えていただいた。
映画の話、辞書・辞典の話、幻想文学の話、パソコン日本語変換の話、原稿用紙の話そして勿論Macintoshの話題も…。あるとき先生からイメージライター用のゴールドとシルバーのインクリボンをいただき驚喜したときのことなどは今でも鮮明に思い出す。
そしていまだから白状しようか…(笑)、1991年に私の会社で縦書原稿用紙ワープロ「たまづさ」というアプリケーションを開発したが、もし紀田先生と知遇を得ていなければその開発にゴーサインを出さなかったかも知れない…。なぜならそれまで私自身原稿用紙の意味と効用、その歴史などについて無知だったからである。
それだけ先生には直接間接的に大きな影響を受けている…。
ところで本書は現在の不景気な時期とは違い初版でまずまずの発行部数を実現できたが残念ながら重版にはならなかった。そのひとつは当時のマスコミがファクシミリという最新機器を正当評価できなかったこと、そしてそもそもがMacintoshユーザーも少なかったことが要因なのかも知れない。
ただし私自身十数冊書いた著作の中には「図形処理名人 花子」といったベストセラーとなった本もあるものの、いまだに「Macの達人読みましたよ」と言ってくださる方はいらっしゃるが「花子読みましたよ」という声は聞かない…(笑)。
「Macの達人」は紀田先生のお名前があったればこそだが、それだけMacintoshを好むユーザーにはインパクトの強い一冊だったのであろう。
「Macの達人」刊行から早くも21年にもなるが、本書の刊行はまさしく私の人生で自慢できる…誇れる数少ない出来事だったといえる。そして最近これまた時代の流れに後押しされてTwitterも始めたが、1980年代後半から始まったこのFAXによる “つぶやき” は自画自賛ながら当時の時代背景や雰囲気を多少でも感じていただける貴重な資料となった。しかし果たしてTwitterによる “つぶやき” はこの後私たちにどのような夢を見させてくれるのだろうか…。
ともあれ紀田先生の新しいホームページ「紀田順一郎 書斎の四季」で未知の本と廻りあえる楽しみをまた味わうことができるのは幸いである。