先日、久しぶりに撮影関連の機材をいくつか購入した際、勢いで「カチンコ」を手に入れた。「カチンコ」を知らない人はいないだろうが、これは一般的に映画撮影の始まりを合図するのに使う一種の拍子木で、下につけた黒板にテイク、シーン、カット番号などをチョークで書き入れ撮影し、編集時の目印とするものだ。

 

手に入れた「カチンコ」は…オモチャではなくホンモノである。そして念のためだが「ガチンコ」ではなく「カチンコ」である(笑)。
さて「カチンコ」という名はそれを鳴らしたときに出る音から付けられた名だというが私などには映画の最も象徴的なアイテムのように思える。ちなみに「カチンコ」は英語だと “clapperboard” というそうだ…。
そもそも「カチンコ」は蝶番の付いた拍子木のようなものに黒板(最近ではホワイトボード仕様のものもある)を付けた様式が一般的である。そしてその用途は前記した目的の他にも映像と音声のシンクロを取るために重要な役割を果たしてきた。
それは現代のようにビデオしか知らない方には想像がしにくいだろうが、映画用のムービーカメラにはそもそもが録音機能はなかったのである。そして無論音と映像をシンクロさせるための機能も皆無である。しかし当然のことながらトーキー此の方、映像と音声はきちんと合っていなければならない。したがって音声は別途テープレコーダで録音し、それを編集時に映像とシンクロさせる必要がある。

kachinko

※拍子木部分の長さが約27cmほどの中サイズの「カチンコ」である。無論右の白い棒状のものはチョークだ


そのため「カチンコ」の映像と音は後の編集時の拠り所でもあったわけだ。なぜならフィルムに撮った「カチンコ」が閉じたコマとレコーダの音が出た瞬間を頭出しとしてシンクロさせれば映像と音とは間違いなくシンクロするという理窟になるからだ。
それだけ重要な「カチンコ」だが、どうも現実には助監督の仕事である時代も長く、下積みの仕事の印象が強い。
ともあれ実際の現場ではこの「カチンコ」がうまく出来ないことには一人前に扱ってもらえないほど大切な仕事であったという。
なぜなら高価なフィルムの節約といった面もあり、無論後々編集の容易さも考えなければならず、「カチンコ」は微動だにせず画面に打ち鳴らしたコマが映っていると同時に一瞬で画面から消えなければならない役割があった。まさにそれは職人芸の世界だという。

最近ではご承知のように同時録音が可能になっているから映像と音をシンクロさせるための用途は低くなっているが後の編集のため、テイクやシーン・カット番号を記録する重要性はかわらない。そして事実演技者への合図という意図が強くなってもいる。
そういえば「カチンコ」の替わりにスケッチブックなとで代用することも増えていると聞く。

とはいえ私自身は実際の映画撮影をよく知っているわけでもなく「シャボン玉ホリデー」だったか…テレビでハナ肇の付き人だった “なべおさみ” 演じるメガホンを持った監督とカチンコを持った助監督が演じるドタバタ劇の方が印象深いというべきか(笑)。また映画の蒲田行進曲にも印象的なシーンがあった…。
ともかくAppleの純正アプリ iMovieのアイコンがこの「カチンコ」であるように、映画・動画をイメージするものとしては「カチンコ」の右にでるアイテムはないだろう。

imovieHDicon

※iMovie HDのアイコンもカチンコをモチーフにしたものだ


そんなふうにポピュラーな「カチンコ」だが意外とホンモノを手にした人は少ないのではなだろうか。無論私もいまさら映画監督のマネをして遊ぶほど暇でもないのだが遅まきながら好奇心から比較的小型サイズの「カチンコ」を手に入れた次第…。
ただし単にオブジェとして飾っておくのも勿体ないので、動画撮影時にその頭に意図的にタイトルやテイクナンバーなどを書き込んで撮影してみようかと思っている。

ともかく私にとってこの種のアイテムは実用というより側に置いておくことで気持ちも高揚し作業が捗るのが何よりの効果なのである。
「カチンコ」を手に持ち、「今日もいってみようか!」「ヨーイ、スタート」と声を張り上げ「カチンコ」を鳴らしてからMacintoshの前でアニメーション制作に入るのも…良いかも知れない(笑)。