
最初期のMac環境にEGWordというMac初の日本語ワープロを開発し、Mac OS Xの現在に至るまでegwordやegbridgeを開発し続けてきたMac最古参メーカーのエルゴソフト社が1月28日をもって販売を終了しパッケージソフト事業からの撤退を発表した。
噂としては昨年末からその可能性は耳にしていた。その噂が現実味を帯びてきたのが年末に同社の取締役でありこれまで多くのユーザーの信頼を一手に引き受けてきた感のあるI氏が退職されたという情報が入ったときである。
そしてその噂が事実だったと認識せざるを得なくなったのはMacPeople編集部から同社のパッケージ販売撤退に関する原稿執筆依頼があったことによる。しかし事はデリケートな問題であり正式な発表があるまで公言できなかった。
なおエルゴソフト社がMac市場に果たした功績とその歴史的な役割などについてはMacPeaple誌3月号を是非ご一読いただきたいが、ここでは少し視点を変えて素直な感想を記してみたい。
※MacPeople 3月号表紙。32〜33ページに筆者による「エルゴがパッケージ事業から撤退/マックの日本語環境を築いた功績」が掲載されている
エルゴソフト社の創立は1984年1月という。同年同月はMacintosh 128Kが発表されたときであり、同社はまさしくMacintosh誕生とシンクロしてスタートしたことになる。ただしエルゴソフト社がアップルと接触したのは1983年のことらしいが、それはLisa用の日本語ワープロ開発をアップルに提唱したことがきっかけだった。
ともかく現在では想像もできないかも知れないがMac 128Kは日本語が使えないばかりか、日本語化予定のアナウンスさえなかった。その後遺症からかDTPという概念がMacとPageMakerそしてLaserWriterにより浸透してからも「マックは日本語が苦手」という間違った話が根強く残っていたほどである。
※EGWord 3.0.1の画面。最初期のバージョンを探したが見つかったのは当該バージョンしかなかった…
エルゴソフト社のEGWordが市場に登場したのは1985年だったが、最大500文字までのかな文字を一括変換するその能力は我々Macintoshユーザーの日本語環境に対する劣等感を払拭するものがあった。このEGWordはキヤノン販売が独自に漢字ROMを搭載したDynaMacにEGBridgeと共に販売された。しかし大量の原稿を効率よく作り上げるには正直まだまだ非力だったと記憶している。そのためMacintoshそのものは素晴らしかったものの1989年あたりまで、私は書籍や雑誌の原稿の多くをPC-9801と一太郎、あるいはIBM5550を使っていたほどである。
ただしEGWordがMacintoshの日本語利用環境を確立し強固にしていったことは間違いない。特に私は一人のユーザーとしてだけでなく十数年の間、同じアップルのデベロッパーという立場でエルゴソフト社とは幾たびか会議であるいはイベントでご一緒し、後にMOSAに在籍していたときにもお世話になった。したがってソフトウェアビジネスの難しさは誰よりもよく知っていると思っているし、ましてや日本語ワードプロセッサという製品を考えたときすでに残念ながら多機能・高機能のワープロソフトの使命は終わっていると思わざるを得ない。そして日本語変換システムもApple純正の”ことえり”で事足りるユーザーも増えた。そうした変化は私自身のMacintosh環境を考えても一目瞭然であり、すでにワープロソフトを使わなくなって久しい…。
1993年5月にエルゴソフト社はその株式の100%を(株)光栄(コーエー)に渡して事実上の子会社になったときも口さがない我々は大いに危惧したものだ。表向きの発表はゲームメーカーのコーエーがビジネスソフトを含む一般市場向けソフト事業の拡大を目指したものだったが、エルゴソフト社にとってのメリットは潤沢な開発資金のバックアップの取得にあったのではないだろうか。
ともかくその後もエルゴソフト社の情熱は変わらず、68KからPowerPCとCPUが変わったりMac OS Xに移行した際もいち早く新しい環境に対応すべく努力されてきた。また同社のユーザー寄りのサポートの良さも定評がある。私も幾たびかその場に遭遇したことがあったが、例えば日曜日にアップルの会議室で開催されたユーザー会にエルゴソフト社の開発関係者が出席し、その場でユーザーから指摘されたバグを次のユーザー会の席上では早くもバグフィックスしたバージョンを提供するなど、メーカーというかデベロッパーの手本ともいうべき地道で誠実なビジネスをされていた印象が強い。
なおサポートは今後も一年間継続され、その後も正規ユーザーの製品使用は許諾されるとのことだ。今後はエルゴソフト社自身の去就が気になるが、その点は発表されていない。
いまはただ日本のMacintoshユーザーの一人としてエルゴソフト社は勿論、すでに職を辞しておられる関係各位にも心より「ありがとう」と申し上げたい。