テルミンという電子楽器をご存じだろうか。最近は以前より多少は知られるようになってきたが、世界最古の電子楽器で触れずに演奏が出来るというまか不思議な楽器として様々な機会に紹介されることも多くなった。今般宝島社から発売された「テルミンで音を奏でよう!」は完成品のテルミンが同梱されているというのでAmazonから買ってみた。

 

これまでにも学研「大人の科学 vol.17」の付録がテルミンだったことがあったが、これは簡単だとはいえ組立だった。しかし今回宝島社から発売されたパッケージには完成品のテルミンが同梱され、別途単四乾電池4本用意すればすぐに始められるという。しかも価格は税込み2,000円という安価なものなのでテルミン好きとしてはまず手に入れてみた次第。

TakaraTheremin_01

※宝島社から発売された「テルミンで音を奏でよう!」パッケージ


さてパッケージの中にはどこかあのモーグ博士が開発したEtherwave Thereminの姿を彷彿とさせる形のテルミンが同梱されている。向かって右にピッチアンテナがあり、本体左にはU字型をしたボリュームアンテナ、そしてフロントには3つのダイアルが付いている。なお残念ながらボリュームアンテナは飾りであり機能しない。
本体右に電源スイッチがあり、最初はいわゆるチューニングが必要だがそれさえ上手くいけば即音を出すことが出来る。

TakaraTheremin_02

※「テルミンで音を奏でよう!」に同梱の完成品テルミン。手前はサイズ比較のために置いたiPhone 4


テルミンについては以前ご紹介した学研「大人の科学 vol.17」の項を参照いただきたいが、今回の製品はテルミン本体および使い方を記した小冊子が付いているものの「大人の科学 vol.17」のようにテルミンの歴史的な背景や解説といった内容は含まれていない。あくまでテルミンとはなんぞやということを知っていることを前提にしているようだ。
ただ「大人の科学 vol.17」の時もしばらく使っていて思ったことだが、この種のいわゆるオモチャのテルミンはテルミンという楽器を本当の意味において知り得る教材になるのかが少々心細くなってくる。

無論本格的な楽器として使えるEtherwave Thereminには10万円ほどするし、別途アンプとスピーカーを必要とするから良い音で聞かせようとすればそれなりに予算も必要だ。それに比べて宝島社から発売された「テルミンで音を奏でよう!」などはまさしく手軽に買える値段が魅力であり、かつテルミンとはどのような楽器であるかを知るよすがとなるというコンセプトなのだろう。
しかしEtherwave Thereminを使っていた1人として小うるさいことを言うようだが、この種のオモチャは不接触で音階を表すことができるニュアンスは知り得るものの逆にテルミンの本当の魅力を知るきっかけを失ってしまう危険性もあるように思うのだ。

なぜならこの種のものは音が単純すぎることもありビブラートを意識的につけても私には良い音色には聞こえない。そして外部のアンプやスピーカーに出力するすべもないのであくまで本体のみで楽しむ他はない。
勿論テルミンの怪しげな音は恐怖映画の効果音などでも使われてきたこともあるからそうした使い方には向いているものの楽器…すなわち音楽を奏するものとしては未完成すぎると思うのだ。
果たしてこのテルミンを使い、是非是非本館的なテルミンを演奏してみたいと…例えばEtherwave Thereminレベル以上の製品を手にする方がどれだけいるのだろうか疑問である。それは音色に魅力なく、音域も大変狭く、そしてボリュームアンテナがないわけでこれでは正直まともな演奏をすることはできない。
確かにこの価格なのだから無理を言ったところで仕方がないわけだが、心配は「テルミンってこんなものなのか…」と失望して興味を失ってしまう方の方が多いのではないかと危惧してしまう。
まあオモチャのピアノを叩いていた幼児が将来本物のピアニストになることだってあり得るとするなら全面否定するつもりはないが、Etherwave Thereminを使っていた1人としてはこのオモチャでテルミンを理解したとは思われたくない(笑)。
せめて現在私自身も楽しんでいる「大人の科学 製品版 テルミンPremium」程度のものを是非試していただきたいと思うのだが…。なおこの学研「大人の科学」の製品版はボリュームアンテナも使える本格的なものなので個人的にはまずまずテルミンの長所と短所をきちんと知り得ることが可能なものだと思うし、十分に楽しめるものだと思う。本製品ついてはまた別途ご紹介する機会を得たい…。

ともかく、テルミンといえば「ああ、あのお化けでも出てきそうな音がする奴ですね」という程度の理解では困るのである(笑)。
事実テルミンは前記したように映画の効果音に使われたりしてきたが例えば是非一度、伝説的なテルミン奏者だったクララ・ロックモア(Clara Rockmore)女史の演奏を聴いていただきたいものだ。これこそテルミン最高の演奏だからである。
もともと彼女はバイオリン奏者だったが優れた演奏者とこれまた最高のテルミンがなし得た技とでもいいたいほど美しい音楽である。その音色は弦楽器のようでもあるしまた人の声でもあるような不思議な音色である。
これはクララ・ロックモアが使っていたRCAテルミンが大変音楽的な音色だったことも要因だが、テルミンはクララ・ロックモアという世界初でかつ優秀なテルミニストを得て楽器として評価されたと言ってもよい。

TakaraTheremin_03

※岳陽舎刊「テルミン」竹内正美著表紙。テルミンとその発明者の数奇な運命を知るにはうってつけの一冊


まあ、練習時には下手なバイオリンをかき鳴らす以上に耳障りな場合もあるだろうが私にとっては空間に手をかざすだけで奏でられるという得意な楽器であることと同時に1993年に制作された、スティーヴン・マーティン監督による発明者テルミン博士の数奇な人生を描いたドキュメンタリー映画「Theremin An Electronic Odyssey」を観た感動がいまだにテルミンを無視できなくさせているのである。

テルミンで音を奏でよう!