
アーサー・コナン・ドイル没後80周年記念としてコロムビアミュージックエンタテインメント(株)から発売されているDVD「アーサー・コナン・ドイル全集」を入手した。無論シャーロック・ホームズ生みの親の冠が付いた全集というのだから見逃せないが一番はそのアーサー・コナン・ドイル自身へのインタビュー映像が含まれていることなのだ。
本DVDはドイルの没後80周年を記念し企画されたものだという。
本編には最高のホームズ役として評判が高かったベイジル・ラスボーン主演の2編作品「シャーロック・ホームズ/緑の女」と「シャーロック・ホームズ/闇夜の恐怖」、そして無声映画ロスト・ワールド」および「アーサー・コナン・ドイルへのインタビュー」といった4編の映像が収録されている。
※コロムビアミュージックエンタテインメント(株)発売のDVD「アーサー・コナン・ドイル全集」パッケージ
個人的に興味があったのは断片的に見たことはあったもののドイルが写真ではなく動画で出演している映像が見られることだ。これはトーキー映画が開発された1927年その年に撮影され奇跡的に残されていたという10分間のインタビュー記録である。
シャーロック・ホームズを書いたきっかけと特に晩年熱心に取り組んでいた心霊研究について熱く語っているドイルの姿と肉声に出会えるのはホームズファンとしては大変嬉しい…。
※自宅の庭で愛犬と共にインタビューを受けるドイルはこのとき68歳だった
ただし肝心の…というべきなのかどうか、前記した2編のホームズ物は「シャーロック・ホームズ/緑の女」が1945年、「シャーロック・ホームズ/闇夜の恐怖」が1946年に制作されたモノクロ作品だが時代とはいえ個人的にはホームズらしさはほとんど感じられないしがっかりである。そして相変わらずワトスンは道化者だ(笑)。
ホームズ役のベイジル・ラスボーンは確かに長身で痩せ形であり14本もの映画でホームズ役を演じ人気を博した。しかしストーリー自体が聖典に登場するホームズからはほど遠くその点にこだわる1人としては感情移入ができない。
※ホームズ役のベイジル・ラスボーン
例えば「緑の女」では警部と飲みに行った店でストーリーに重要な役割を果たす女性の第一印象として「いい女だな、派手だが品がある」と口にする…。しかし聖典のホームズは女性に対してこんな台詞は決して吐かないだろう。
何しろ本来彼は外見で物事を判断するのを忌み嫌う。
例えば「四人の署名」の中でワトスンがメアリー・モースタン嬢に対し「なんてきれいなひとなのだろう」と言うとホームズは「そうかね…気がつかなかった」とものうげな調子で答えている。そして「何よりも重要なことは」と断ってから「相手の個人的な特徴によって、判断力を曇らされないようにすることだ…」そして「…本当の話、僕の知っている一番の美人は、保険金ほしさに三人の子供を毒殺して死刑になったし、また僕が知っている中で最も不愉快な男は、慈善家で、これまでロンドンの貧民のために二十五万ポンド近くの金を投げ出した奴なんだ」とワトスンをたしなめてもいる。
それに「緑の女」「闇夜の恐怖」共に犯罪に立ち向かうホームズは科学的な推理で活躍するというより、成り行きまかせであり、物をすり替えたりというのは得意だがホームズらしい切れ味の鋭いところは皆無でまったくホームズらしくない。
まあ原作は確かにアーサー・コナン・ドイルのクレジットは入っているがいわゆる聖典にあるストーリーではなく映画のためのオリジナルストーリーであること、そして時代の設定も電報、馬車といったヴィクトリア調時代最盛期というより電話、自動車の時代として描かれているしあくまで「アメリカのホームズ」といった描き方に違和感を感じるのだろう。
しかしこれらが第二次世界大戦中に制作されたことを知るだけで、当時の日本との国力の差が歴然と分かるような気もする…。
このDVDでドイル自身のインタビューの他に観るべきものは1925年制作の無声映画「ロスト・ワールド」ではないだろうか。
「ロスト・ワールド」という作品はもしかすると一般的にはドイルの作品の中でホームズ物の次に知られている作品かも知れない。これはアマゾンの奥地に恐竜が生存していると主張するチャレンジャー博士が学者や雑誌記者らを集めて探検隊を組織し苦難の末に太古から時が止まっている世界を目にする…というもの。
いわば現代に恐竜が宿るというこの物語はこれまでにも幾度となくリメイクされてきたが本編はその最初の映画化なのだ。そして本作品は無声映画とはいえあの「ジュラシック・パーク」はもとより「ゴジラ」に至るまですべての恐竜映画の先駆けとなった作品なのである。
※1925年制作の無声映画「ロスト・ワールド」より恐竜同士の戦いのシーン
さらに「ロスト・ワールド」は特撮映画の古典でもあるが、公開された当時そのスクリーンを観た観客たちはその恐竜たちのリアルさに驚愕したようだが、コンピュータ・グラフィックスに見慣れている現代の我々からは人形をストップモーション・アニメーションの手法、すなわちコマ撮りしたその映像は素人にでも作れそうで幼稚に見えてしまうのは致し方ない…。
また恐竜そのものに対する科学的な理解も時代を反映し、肉食恐竜の姿勢はまるでゴジラのようだ。しかしその特撮を担当したウイリス・オブライエンは後に「キング・コング」(1933年)の特撮を手がけることになるほど評価されたのである。
したがって「ロスト・ワールド」は恐竜もの、特撮映画といった点から見ても特筆すべき作品であり1度はご覧になる機会を得ることをお勧めしたい。