正月休みを利用して数本のDVDを観たがそのうちの1本がロシア版「バスカヴィル家の犬」だった。昨年の「シャーロック・ホームズとワトソン博士」に続き、待ちに待った2作目が正式に入手できるようになったからだ。                                              

 

昨年8月にソ連時代の1979年から1986年にかけレニングラード、現在のサンクト・ペテルブルグでテレビ放映用として制作された作品から「シャーロック・ホームズとワトソン博士」をご紹介した。そして作年末には待望の「バスカヴィル家の犬」が発売された。
無論シャーロック・ホームズとワトソン博士は「シャーロック・ホームズとワトソン博士」と同じくワシーリー・リヴァーノフとヴィターリー・ソローミンが好演している。

altartsDVD

※1981年作ロシア版「バスカヴィル家の犬」DVD

 

本作品は1981年にソ連のテレビ放映用として発表されたものだが、おそらくホームズ物のオリジナルの中で最も映像化されたであろう「バスカヴィル家の犬」にあって原作に忠実な作品としてこれからもっと注目を浴びるに違いない。
「バスカヴィル家の犬」はコナン・ドイルのホームズ物として長編のひとつだが、ダートムアという荒涼とした舞台、炎に包まれた魔犬が登場するといった魅力的なストーリー展開のためかこれまでにテレビは勿論映画も多数作られてきた。

私はといえばやはりグラナダTV制作「シャーロックホームズの冒険」でジェレミー・ブレットのホームズとエドワード・ハードウィック演じる「バスカヴィル家の犬」が映像として頭にこびり付いているし作品の格調の高さやホームズ役ジェレミー・ブレットは勿論、個人的にエドワード・ハードウィックのワトソンが好きなので何度観たことか…。

GranadaTVDVD

※グラナダTV制作「シャーロックホームズの冒険」より「バスカヴィル家の犬」収録のDVD

 

無論映画…映像化に際して原作とまったく同じに作るという必要もないがそこはシャーロッキアンたちに聖典ともいわれる原作だからして映像化のひとつの興味はいかに原作の香りを損なわないかにある。
そうした面からもグラナダTV制作「シャーロックホームズの冒険」はいまだにホームズ物の映像化として最も優れているのは確かだろう。
ただしその「バスカヴィル家の犬」でも原作そのままにとはいかなかった。

例えば最終章にロンドンから呼ばれて登場するレストレード警部は役者のスケジュールが合わなかったらしく登場せず、代わりに事件を持ち込んできたモーチマ医師に同伴を請うている。
また1983年公開のホームズ役がイアン・リチャードソンによる作品でも最後に魔犬と立ち向かうときにレストレード警部はいないばかりか、最後に魔犬と格闘するのは他ならぬホームズ自身となっている。

RossandPartnersVHS

※1983年公開イアン・リチャードソンのホームズによる「バスカヴィル家の犬」VHSパッケージ

 

しかしロシア版「バスカヴィル家の犬」は最後の場面にレストレイド警部をきちんと登場させている。さらに原作では魔犬にリボルバーの銃弾5発を食らわせるのはホームズのはずだがここではレストレイド警部にその役を追わせているのは面白い。
なにしろレストレイドは警察官であり拳銃の扱いについても当然プロフェッショナルなのだから妥当な設定ともいえようか…。
ただしこれまたリアリティを増す演出なのかも知れないが、犯人と銃撃戦になる場面は原作にはない。
また沼地を捜査するとき、長い木の枝を地面に差しながら歩く姿はさもありなんと思うが、その点グラナダTV制作もイアン・リチャードソン主役の「バスカヴィル家の犬」もそうした配慮は怠っている。

さてロシア版各主人公の描写だがなかなか特徴的な部分も多く興味深い。
まずカナダから来たというバスカヴィル家相続者のヘンリー・バスカヴィル卿は紳士というより粗野で少々戯け物といった性格で描かれているしモーテマ医師は些かなよなよし過ぎに思える(笑)。
まあ、決してヘンリー・バスカヴィル卿を悪く描いているわけではないものの当時のロシア人にとってアメリカ大陸から来た人物…それも金持ちの印象はこんなものだったのかも知れない。

ともかく本作品はロシア版とはいえ、監督自身の編集で短編版を本場イギリスBBCで放映したほどロシア版ホームズ連作中の白眉だというだけあって大きな違和感はなく全体的に端正な出来だと思う。今後はより評価が高まるのではないだろうか。